ドラマ「山田孝之の東京都北区赤羽」(15)で絶妙なコンビネーションを見せ、「山田孝之のカンヌ映画祭」『映画 山田孝之3D』(17)の2本では、自由な映像表現で映画ファンを驚愕させた俳優の山田孝之と監督・山下敦弘。
そんな盟友コンビによる待望の劇映画となる本作は、90年代に漫画雑誌「グランドチャンピオン」で連載され、多くの読者の共感を呼んだ伝説のコミック「ハード・コア 平成地獄ブラザーズ」(作:狩撫麻礼、画:いましろたかし)の待望の映画化。10年前に本書を読んで「男たちの結末に泣いた」という山田と20年近く前に愛読していた山下監督は、初めて組んだ『BUNGO~ささやかな欲望~』(12)の撮影後にお互いが原作のファンであることを確認し、ともに映画化を夢みていたという。そんな念願の企画が、ふたりがそれを表現するのに相応しい年齢になったいま、最高の形で具現化。30年近く前の男たちの狂おしくも熱いドラマが、生身の人間に命を吹き込まれてスクリーンで蘇るときがきたのだ。
人間関係が希薄になり、バブル崩壊後は経済成長率も低迷し続けている現代日本。その都会の片隅で細々と生きる権藤右近は、あまりにも純粋で、信念を曲げることが出来ず、世間に馴染めないアウトロー。弱者を見下し利用しようとする世間に対して、間違いを正そうとする信念を暴力に変えてきた彼は、仕事も居場所もなくしてきた。そんな右近の仕事は、群馬の山奥で怪しい活動家が進める埋蔵金探し。共に働く精神衰弱気味の牛山だけが唯一心を許せる友人で、女性を一度も抱いたことがない彼のことを不憫に思い、何とかしてやりたいと考えている。そんなある日、牛山が住処にしている廃工場で古びたロボットを発見。なぜか自分たちに寄り添うそのロボットに「ロボオ」と名づけた彼らは、やがて頭はキレるものの、退屈な毎日に嫌気がさしているエリート商社マンの右近の弟・権藤左近を巻き込み、人生が一変するようなとんでもない野望を実行に移すが……。

主人公の権藤右近を演じるのは、この役を体現する日がくることをずっと待ち焦がれていた山田孝之。必要ならば肉体までも改造し、多彩な役柄を自らのものにしてきた彼が、無骨ながら実は心優しい平成のアウトローを人間臭く演じていて見逃せない。牛山役には、10年ほど前に山下監督と居酒屋で原作について語り合い、「牛山役は自分しかない」という荒川良々。「生きていく上でのバイブルの映画化、やっと来た!」と喜びの言葉を口にする彼ならではの、味のある芝居も本作を愛おしいものにしている。右近の弟・権藤左近を、山田孝之が直々に口説き、「彼との兄弟役と聞いて2秒で出演を決めた」という佐藤 健が演じているのも話題。『るろうに剣心』シリーズ(12~14)から『何者』(16)、『8年越しの花嫁 奇跡の実話』(17)まで幅広い役に挑み、NHKの連続テレビ小説「半分、青い。」(18)でも茶の間のファンを魅了した彼が、他作品では見せたことのない表情と佇まいで頭脳明晰で生気が希薄な男に説得力を与えた。さらに、松たか子のスペシャル登場、そして石橋けい、首くくり栲象、康すおん らが個性豊かなキャラクターを演じ、物語をより豪華に彩る。豪華キャストが結集し、山下監督の盟友・向井康介が脚本を担当した本作は、これまでの山下敦弘タッチを漂わせながらも、切なくて可笑しく、ファンタジーも織り交ぜた、まさにこの平成末期に必見の、男たちの人生活劇だ。エピローグに原作コミックにはない映画ならではのシークエンスが加えられ、Ovallと、ASIAN KUNG-FU GENERATIONボーカル・ギターの後藤正文=Gotchのコラボレーションによる書き下ろし楽曲「なだらかな夜」が、感動をより増幅させる珠玉の1本はこうして産み落とされた。「最下層の男たちとの世間とのギクシャク、それに尽きます。山下敦弘は良き映像作家である、と思います」と期待を寄せていた原作者の狩撫麻礼は、映画の完成を前に急逝。本作のラストには、「狩撫麻礼に捧ぐ」というテロップが刻まれている。

人間同士の交流が希薄になり、打算的な生き方をする人々が増えた現代日本。その都会の片隅で細々と生きる権藤右近(山田孝之)は、あまりにも純粋で、信念を曲げることが出来ず、世間に馴染めないアウトロー。弱者を見下し利用しようとする世間に対して、間違いを正そうとする信念を暴力に変えてきた彼は、仕事も居場所もなくしてきた。
あるハロウィンの夜、カラオケバーで仮装し、バカ騒ぎする若者たちを横目に、酒を飲みながらイライラを募らせていた右近だったが、ついに爆発。きっかけは、隣りで「バカみたい…」と漏らしながらひとり飲んでいたOL風の女性(松たか子)が若者たちに誘われるままカラオケで熱唱し、男からのキスを躊躇することなく受け入れてしまったことだった。右近は、男の頭に激しい頭突きを放ち、店内は大騒ぎに。そのまま爆睡してしまった右近が目を覚ますと、虚ろな目に飛び込んできたのは、商社マンの弟・左近(佐藤 健)が、代金を払いながら「悪いけど、もうこの店には…」と注意されている光景だった―。
そんな右近の仕事は、怪しい結社を組織する活動家・金城銀次郎(首くくり栲象)と、その番頭・水沼(康すおん)が、群馬の山奥で進める埋蔵金探し。

共に働く精神薄弱気味の牛山(荒川良々)だけが唯一心を許せる友人だった。女性を知らない牛山を不憫に思い、何とかしてやりたいと考えている。ある日、そんな彼らの、自由でどこか呑気な日々が一変する出来事が起きる。住所不定の牛山が住処にする廃工場で、古びた謎のロボットを発見したのだ。牛山はすぐにそのロボットを友人のように受け入れ、自分たちに寄り添うロボットに次第に親しみを覚えた右近も「ロボオ」と命名して友情関係を深めていく。やがてAIの知識もある左近が、ロボオが見た目とは違い、現代科学の水準を遥かに凌駕する高性能であることを突き止める。「ロボオの人工知能があれば、埋蔵金の発掘なんてちょろいぜ!」と主張する左近に導かれ、群馬の山奥へと向かった3人と1体は、ロボオの能力を使い、まんまと100憶を超える本物の埋蔵金を見つけてしまうのだった!
左近が握る埋蔵金の行方、悲しい牛山の過去、右近の水沼の娘・多恵子(石橋けい)との禁断の恋、会頭・金城の失踪― この腐れきった世の中で、ジレンマを抱えながら生きる彼らの運命は何処へ向かうのか……。

監督山下敦弘

1976年生まれ、愛知県出身。大阪芸術大学卒。『どんてん生活』(99)、 『ばかのハコ船』(03)、『リアリズムの宿』(04)と“ダメ男三部作”を手がけ内外で評価を受ける。05年『リンダ リンダ リンダ』が大ヒット、続く『天然コケッコー』(07)では第32回報知映画賞監督賞、第62回毎日映画コンクール日本映画優秀賞をはじめ数々の賞を受賞。その他監督作品に 『松ヶ根乱射事件』(07)、『マイ・バック・ページ』(11)、『苦役列車』『BUNGO/握った手』(12) 、『もらとりあむタマ子』「午前3時の無法地帯」(13)、 『超能力研究部の3人』(14)、『味園ユニバース』(15)、 『オーバー・フェンス』『ぼくのおじさん』(16)、「山田孝之のカンヌ映画祭」(17)等。最新作はアニメクリエイター久野遥子とのコラボによる「東アジア文化都市2019豊島」の短編作品(ロトスコープアニメ)、その実写監督を務めた。作家性と娯楽性をミックスさせた作風で常に話題を呼び続けている。

脚本向井康介

1977年生まれ、徳島県出身。大阪芸術大学在学中に山下敦弘と知り合い、共同で脚本を書き始め、以降多数の作品でコンビを組む。山下敦弘監督作品としては『どんてん生活』(99)、『ばかのハコ船』(03)、『リアリズムの宿』(04)、『リンダ リンダ リンダ』(05)、『松ヶ根乱射事件』(07)、『マイ・バック・ページ』(11)、『もらとりあむタマ子』(13)。他に『青い車』(04)、『ふがいない僕は空を見た』(12)、『陽だまりの彼女』(13)、『聖の青春』(16)、『愚行録』「植木等とのぼせもん」(17)等がある。初の長編小説「猫は笑ってくれない」が、本年9月発売。

Ovall (Shingo Suzuki mabanua 関口シンゴ)

Shingo Suzuki、mabanua、関口シンゴによるバンドプロジェクト。ジャズ、ソウル、ヒップホップなどをベースにしたサンプリングと生演奏のシームレスな融合によるサウンドや野太いグルーヴが特色。09年の「朝霧JAM」出演時のパフォーマンスで注目を浴び、10年に「DON'T CARE WHO KNOWS THAT」でアルバム・デビュー。13年の2ndアルバム「DAWN」発表後に活動休止。17年に復活ライヴを開催し、同年12月にEP「In TRANSIT」をリリース。

エンディングテーマ:Ovall feat. Gotch
「なだらかな夜」 (origami PRODUCTIONS)

本作のために書き下ろされた、ASIAN KUNG-FU GENERATIONボーカル・ギターの後藤正文=GotchとOvallによるコラボレーション楽曲。

「ハード・コア 平成地獄ブラザーズ」 © 狩撫麻礼 いましろたかし/KADOKAWA刊

狩撫麻礼

1947年生まれ、東京都出身。79年、「East of The Sun, West of The Moon」(画 大友克洋)で原作者としてデビュー。主な作品に「青の戦士」(画 谷口ジロー)、「迷走王 ボーダー」(画 たなか亜希夫)、「ハード&ルーズ」(画 かわぐちかいじ)がある。96年以降は、ひじかた憂峰、土屋ガロン、marginal、ダークマスターなど数多くの別名で活動した。86年、「ア・ホーマンス」(画 たなか亜希夫)が松田優作監督・主演で映画化、「ルーズ戦記 オールドボーイ」(画 嶺岸信明)が、03年パク・チャヌク監督、13年スパイク・リー監督で、それぞれ映画化されパク監督作『オールド・ボーイ』は第57回カンヌ国際映画祭審査員特別グランプリを獲得した。「湯けむりスナイパー」「リバースエッジ 大川端探偵社」の2作品が大根仁監督によってドラマ化されるなど、映像化された作品も多数。18年1月7日に逝去、享年70。

いましろたかし

1960年生まれ、高知県出身。86年、ビジネスジャンプ掲載の「不通の人々」でデビュー。社会の中で“生きづらい”人々をリアリズムの視点で描く独特の作風で多くのファンを引き付ける。主な作品は、「ハーツ& マインズ」「デメキング」「タコポン」(原作 狩撫麻礼)「ぼくトンちゃん」「釣れんボーイ」「非国民」(狩撫麻礼との共作)「ラララ劇場」「化け猫あんずちゃん」「原発幻魔大戦」「永遠のケツ」など。09年には、「デメキング」(寺内康太郎監督)が実写映画化されている。